23-最終回

私の観光は最後に財布をスラレ終わった。
全くむなしい終わり方だが、
それが私の人生を反映しているのだろう。
あとは列車で一日かけて成都に戻り、
帰りの飛行機に乗るだけだ。

長旅ですっかり汚れてしまった青いリュックには
この旅で出会った美女との思い出を詰め込み
私は列車に飛び乗った。

行きの列車では女子大生ツァイツァイと
子供たちに囲まれ楽しく過ごせたが、
帰りはどんな人と寝台列車を共にするのだろう?

私が期待しながら自分の寝台に向かうと
おばさんが一人既にシートに腰掛けていた。
50代とおぼしきそのおばさんは、
まるで通天閣ビリケンさんのように
シートにちょこんと座っている。

心なしか顔もビリケンに似ている。
私も同じようにビリケン風に腰掛けていると
他の同乗者がやって来た。

白いシャツからはむき出しのごつごつした筋肉
そして綺麗に刈り上げられたスポーツ刈り。

チャイニーズ・ジャイアンみたいな奴が来たぞ!

その後に続くようにさっきのジャイアンより
少し小柄だが、これまた髪を短く刈った
筋肉ムキムキのリトル・ジャイアンも現れた。
ひとついいか?

この寝台、相当むさくるしいんだが!

嫌だなー。だってジャイアンだよ?
キム・ヨナが韓国国民の妹なら、
ジャイアンは日本国民の敵だよ?
そしてさらに一人、メガネをかけたインテリ風の
スネオがメンバーに加わりジャイアン
リトル・ジャイアンとスネオとビリケンおばさんと私を
乗せた列車は成都に向けて走り出した。

嫌だなー、ジャイアン怖ぇなーなんて思ってると
ジャイアンが気さくに話しかけてくる。
日本人だと知るとさらに興味をもっていろんなことを聞いてくる。

おい!渡辺!こんなお菓子は日本にもあるか?
おい!渡辺!中国で有名なこの日本人を知ってるか?
おい!渡辺!一緒にトランプするか?

私は気づいたらジャイアンとリトル・ジャイアン
スネオとトランプをしていた。

それをおばさんが隣で微笑ましそうに見ている。

私は彼らと数時間一緒に過ごすうちにある事に気づいた。
彼らは初対面ですぐに仲良くなり
旧知の仲のように楽しそうに話すが、
ちょっとトイレに行く時なども
貴重品を必ず携帯しているのだ。

日本なら相手を一度信じたらそこまで神経質に
ならなくてもよさそうだが、
彼らは親しくはするが、相手を100%
信じきってはいないようだ。
それがこの国で生きるコツなのだろう。

夜になり、列車内は消灯時間の
10時を迎えようとしていた。
ジャイアンは日本語にも興味を持ったようで
自分のベッドに横になりながら
次々に私に質問をあびせかける。

渡辺!財布は日本語でなんていうんだ?

「さいふ」

渡辺!これ!ほら、ベルトは?

「べると」

渡辺!私の趣味はお酒を飲むことです、
って日本語でどういう?

「私の趣味はお酒を飲むことです!」

わたしの、しゅみは、おさけをのむことです!でへへ!

ジャイアンが嬉しそうにそういい、
リトルジャイアンもスネオも笑う。
ビリケンおばさんは眠っているのか
目を閉じてシートの上で寝転がっている。

渡辺!ところでお前、蒼井 空って知ってるか?

「AV女優の?」

そうだ!彼女はとても中国で人気があるんだ。

「そうらしいね。時々ニュースで見るよ。」

ところでな、AVでみんな女の子が
やめて!って言ってるんだが、あれはどういう意味だ?

「それは嫌な時に言うんだよ。
不要!(やめて)って意味さ。」

じゃあ女の子がAVでイカ!っていうんだが
あれはどういう意味だ?

リトル・ジャイアンもスネオも
その言葉の意味が気になるのか聞き耳をたてている。

イカ?なんだろう・・イカは食べ物だよ。
 ん?もしかして・・」

果たしてどう説明していいのだろう・・・。
迷った私はこう言った。

「それは、きっとイク!って言ってるんだよ。」

どういう意味だ?ジャイアンが聞く。

「うーん、それは・・・」

ジャイアンは3段ベッドの2段目から
一番下のベッドの私に体を乗り出し、
目を輝かせながら聞いている。

「中国語で説明するのは難しいよ!
 とにかく、気持ちいい時に言う言葉さ!」

私は一体中国人相手に何を説明しているのだろうか。

ジャイアンは寝ているおばさんには聞かれたくないのか
儒教的な慣わしで年上の人にそんな会話を聞かれると
恥ずかしいのか、さっきよりもずいぶん声を
押し殺しながら質問を続ける。

じゃあ、SEXをするって日本語でなんていうんだ?

「そうだなー、エッチをする」

わたしは、えっちをする!
わたしは、えっちをします!

「そうそう!」

私達が馬鹿な話をしていると
それを切り裂く声が下から聞こえた。

「あんた達、何を話してるのよ!!」

ビリケンおばさんが急に目覚めてそんな事を言うもんだから
ジャイアンはアチャーという顔をしてベロを出し
それ以来、喋らなくなってしまった。
案外おちゃめなジャイアンである。

翌日、昼の三時、
私達ドラえもんズ with ビリケン
乗せた列車はようやく成都に着いた。
「渡辺!また中国に来いよ!」
ドラえもんズはそう言ってくれた。
きっと来るよ、私はそう答えた。

私は歩いて、ユースに行った。
初めて成都に来た時に泊まったところだ。
何日ぶりになるだろう?
もう二十日以上たっているだろう。

そういえばこのユースで働くローリーは可愛かった。
果たしてスタッフは私の事を覚えてくれているだろうか。

「こんにちは〜ベッドを一つ予約してるんだけど」

受付にいた若い大学生のような女性には以前
道案内を頼んだので顔見知りである。
彼女が口を開く。

「予約してあるのね、でもあなたを私は
 受付できないわ。あなたの担当を呼ぶわ!」

その女はいたずらっ子のように笑う。

「担当?」

「そうよ!ローリー!!」

呼ばれたローリーがしばらくして小動物のように現れる。
「ローリーはあなたのことが少し気になるって
 いってたのよ!ひひひ!」

ローリーはそんなことないわ〜と笑っている。
そういう大事なことは先に言ってくれないか?

もし本当にそうなら旅を早く切り上げて
成都に戻ることだってできたんだから!
ローリーに成都案内頼むこともできたんだから!
しかし時既に遅し、私は明日の飛行機で日本に帰るのだ。
私の運命なんてそんなもんだ。

翌日、ローリーはもういなかった。
大学生だから大学にでも行っているのだろう。
私は来た時に乗ったバスに乗り、一人空港に向かった。

空港に着き、荷物を預けた。
上海経由だが、荷物は経由地の上海ではなく
大阪まで届くことをきっちり確認した。
成都行き上海経由の飛行機に乗りこむ。

数時間後、上海に降り立った私は
空港のベンチで上海発、大阪行きの
飛行機を待っていた。

搭乗間近の待合室は人が多く
ベンチは満員で全て塞がっていた。
私の隣は荷物置き場となっており、
クッションのない椅子のようになっていた。
私はそこに荷物を載せ搭乗時間を待っていた。

すると私の顔をじろじろ見る少女がいる。
「そこ座っていい?」その女が話しかけてくる。

「ここは椅子じゃないよ。」

「気にしないわ」

「そう、じゃあどうぞ。」

19歳だというその少女は上海まで出稼ぎに行くという。

「どうして上海なの?」私が尋ねる。

「友達が働いているからよ、だから住むあてがあるの。
 ところであなたは?」

「上海経由で大阪に帰るんだ」

成都はどうだった?美人多かった?」

ん?どうして私が美人を捜し歩いていた
ことを知っているんだ?

「ってことは、やっぱり成都は美人が多いの?」

「そうよ、盆地で湿気も多いから
 肌がみずみずしくて白い人が多いの。
 こんな言葉もあるわよ。」

一方山水养一方人美女多
(山や水が綺麗な所は美女が多い)

だから君も綺麗なんだね。
お決まりのお世辞も中国語なら言える。

少女は一気に照れだす。
一方山水养一方人美女多か。

数時間後、私は上海の空港にいた。
到着口で空港職員が乗客の名前と思われる紙を持ち
乗客を探している。

ふと目をやるとそこに書かれた名前は私の名前だった。
聞くと私の荷物が大阪に送られるはずが
手違いで今いる上海に送ってしまったから
受け取りの手続きをして欲しいという。

その職員のお姉さんはスーツをびしっと
きこなしているが、どこか優しそうな雰囲気。
しかもよく見るとかなり美人だ。

これは日本にいる中国美女を心待ちにしている
ブログ読者のために写真を撮らねば!と使命感にかられ
写真を撮っていいかと聞くが、写真はダメといい、
頑なに拒否する。

そんな風にされると余計撮りたくなる!

なんで!
スチュワーデスほどではないにしろ、
海外からのゲストと接することの多い
空港職員もやはりルックスの良さで採用される
面はあながち否定できないだろう。

「写真を撮られることは君の仕事でもあるんだ!」
ついに私は意味不明の事を口走っていた。

それでも拒否されるので私はとうとう諦めた。
せっかく美人なのになぁ・・・。

私は荷物を受け取り、関空まで送る手続きをした。
数時間後、私は関空についた。
私は関空から神戸に戻る時に通る高速道路からの
寂れた景色が好きだった。
無駄に照らされた夜の工場に、寂れた街。
かつて住んだことのある辺りは一段と思いで深い。

こんなとき、考える事といえばチベットのこと、
そういえば私はチベットの郎木寺で
クレジットカードが使えなくてお金が下ろせなかったとき
彼女を心配させるメールを送ったっけ。

(メール)
カードが使えないのでお金が2500円しかありません。
これはだいたい中国で一日に消費するお金です。
あと生きれて、一日でしょう。
私はお金が尽きたらチベットの土となります、風となります。
鳥葬の餌食にもなるでしょう。
今まで楽しかったです。さようなら。
お元気で。

うーん、それにしても、ひどいメールを送ったもんだ。
だいたいお金がなくても金なんて中国人に借りればいいし
貸してくれなくても町中で大道芸でもして稼ぐし
死ぬ気なんてさらさらなかったけどね!

私はどこか自分のピンチな局面を
楽しんでいるところがあったんだと思う。
そしてなにより彼女を心配させるのが好きだった。
悪い奴である。

もう数時間で彼女に会える。
一ヶ月近く会ってない。
彼女にはたくさんの心配をかけた。
普通の彼女なら男がチベット
美人を探しに行くと行ったら止めるだろう。
それを彼女は行かせてくれた、行きたいのならと。
懐の大きな奴である。

彼女にたくさんチベットの話を聞かせてやろう。
たくさん出会った美女の話はカットして
都合のいい話だけ聞かせてやろう。

そしてこういうんだ。
チベット美人谷で美女をくまなく探したけど
美女なんていなかったよ。



君以上のね、って!

22-旅の終わりに

とうとう旅の終わりが見えてきた。

三週間に渡ってチベットウイグル自治区
旅してきたわけだが、観光らしい観光は
いよいよ明日で最後である。

そんな明日は、蘭州からウルムチまでの列車内で寝台が
隣になった内モンゴルの女子大生ツァイツァイが
ウルムチの街を案内してくれることになっていた。

ツァイツァイが前日の夜6時までに電話をくれと
言っていたのを思い出し、その頃バスの中だった私は
中国人に携帯を借り、ツァイツァイに電話してみた。

しばらくしてツァイツァイが出たものの、
直接会えば顔や表情、口の動き等で
なんとなく伝わる中国語も電話越しでは
何を言っているか分からない。
私のなんちゃって中国語もこれまでか。

これはいよいよ困ったぞ!といったん電話を切り
路上にあった小さな新聞屋さんに寄り再び電話をかけた。
すると今度はどうだろう。

「あなたがおかけの電話番号には現在つなげません。」

そう機械的な中国語でいうではないか。


・・・。


「ちょっとこれ聞いてみて、さっきはつながったんだよ!」
私がお店のおじさんに言うとおじさんはそれを聞いて言った。

「この人の携帯はプリペイド式だから、
 料金を払わないと電話することができないよ。」


なんとな!!!


ということは彼女がそれに気づいて自分でお金を
振り込むまで連絡を取れないということか?

「何か方法はない?」

「君が電話でこの電話に対して
 お金を振り込むこともできるよ。」

「電話で相手の携帯にお金を振り込む?!」

「そうだ、例えば20元分(260円)でも振り込める」

相手の携帯にお金を振り込んでまで話すなんて・・
日本から来たストーカーみたいではないか!!!

「いや、そこまではしたくないよ・・。」

もし彼女が本当に私をガイドしてくれる気があれば
その日のうちに私からの電話がないことに気づき
自分で振り込むだろう。

もし振込みがなければ、ツァイツァイは私を
ガイドするのが面倒になったか、
何か別の事情があるのだろう。
会えるも縁、会えないも縁である。
私は夜もう一度電話をかけて、それで決めることにした。

夜10時、私はゲストハウスから電話をしてみることにした。
プルるる・・プルルる・・
電子音が鳴った二秒後、音がした。

「おかけになった電話番号は・・」

ツァイツァイ、ツァイチェン(再見)!

女子大生とのデートが夢と消えた私は
翌日、一人でウルムチで一番大きなのマーケットであり
観光地でもある国際大バザールに行った。

ここはガイドブックによると観光客を狙った
スリの名所であるという。
しかし、スリなど上等である!
私は今まで外国でスリになどあったことがないし
引越し会社で鍛えた体は人一倍、力も強いので
スリを見つけたらボコボコに殴りつぶしてやる!
だいたいカバンのジッパーを開けられ
カバンをまさぐられて、財布を抜かれ、
なぜ気づかないのか、それが不思議でならない!
まさに意味不明である!

もう適当に土産でも買って滝川クリステル似の
イスラム美女の写真だけたくさん隠し撮りして
おとなしく帰ろうと思った。

国際バザール内はもはや中国ではなかった。
スパイスなのか滋養強壮の薬なのか、
見てもそれが一体何なのか分からないものが無造作に
並べられた露天を見ているとイスラム圏のマーケットや
インドのバザールを思い出す。

中国人はなぜこんなに顔立ちや言語、習慣まで全く異なる民族を
中華民族」として取り込み「中国人」と呼ぶのだろう。
その大国の傲慢さが、どうしても私には理解できない。

バザールの中は巨大なモールのようになっており
地下の巨大スーパーでは、馬の背のチーズや
日本では到底買えないだろうラクダ肉の真空パック詰め、
本場の羊肉なんかのお土産をたくさん買った。

購買欲が満たされると次は食欲である。
せっかくバザールに来ているのでイスラム系の
レストランに入った。

メニューを見せて〜というと暇そうな店員が
ぞろぞろと寄ってくる、寄ってくる。
一人の活発そうな少女が私に話しかけてくる。

おもしろそうな本ね〜!ちょっと見せてよ!

あら〜私の住む町ってこんな風に紹介されてるのね〜

あらやだ!あなた写真撮ってるじゃないの!

だめよ〜!私はこの店のアイドルなんだから!
写真はNGよ!事務所NGよ!


この店は観光客相手の店なのだろう。
値段が街の食堂の2倍と高かったので、
私は安い餃子スープだけ飲んだ。
イスラム料理は意外と日本人にも
馴染みのある味でどれもおいしい。

店を出てこれからどこに行こうかと
ガイドブックを見ながらあてもなく
バザールを歩いていると背後から私のカバンを
凝視する背が高く彫りの深い男がいた。

なんだ?もしかしてスリか?
私はすぐに財布の入ったリュックの
ポケット部分を手で触った。
するとポケットが開いている。

あぁ、レストランから出たばかりだから
財布をしまうときに、ポケットのジッパーを
開けっ放しで店を出たんだなぁ、よくあるある!と思い
一応、念のために財布を確認してみると


ない。


財布がない。


日本円にして7000円入った財布がない。


成都への帰りの列車チケットが入った財布がない。


クレジットカードが2枚入った財布がない。


免許書の入った財布がない。


彼女が台湾で買ってくれた財布がない!!!!


知り合いもいない異国の地で
金もカードもチケットもなくて
どうやって国へ帰れというのかな?

私はすぐさま、辺りを見渡したが、
怪しい男は既に消えている。
地面を見渡しても財布が落ちている気配はない。

財布をすられるなんて意味不明だと言っていた
私が財布をすられるなんて・・。
もしかしてウルムチで女子大生と
観光を楽しもうとした私への
彼女からの呪いなんだろうか・・・
だとしたら、、、怖すぎる!

こうなったら一旦ゲストハウスに帰り、
日本へメールか電話をし、ホステルで働く従業員の
銀行口座にお金を送金してもらうしかないな・・。

一応、警察にも行っとこう。
そう思い歩き始めたころ、誰かが叫ぶのが聞こえた。
「この財布、誰のだー!!!!!誰のだーー!!!」
一人の青年が天高々に掲げているそれは
まさしく私の財布である!!!

あぁ、私にはあなたがヒーローに見えます。
財布を拾ってくれたのに、「気をつけろよ」と
一言、言うだけで何の見返りも求めてこない。
もしかして、あなたは仏陀の化身ですか?

いや、そうに違いありません。
あなたはそれを否定するかもしれません。
しかし私には見えます。はっきり見えます。
あなたの後ろで仏陀が微笑んでらっしゃるのが!!

どこにありましたか?そう聞くと、
私の財布はゴミ箱にポンと捨ててあったという。

なぜイスラムの神はスリをしてはならぬ、
と教えないのだ。そして盗んだものを
ゴミ箱に捨ててはならぬと。
イスラムに因果応報的な教えはないのか?

拾ってくれた兄貴にお礼を言い、財布をチェックする。
あぁ、やっぱ金は抜かれている。
ところで、カードは、クレジットカードはどうなのよ!
急いで財布を開いて見て見ると、カードは本来
いらっしゃるべき場所で、ちゃんと待機されていた。
時間もそうたってない間に発見されたから
ATMでお金をおろしてもいないだろう。
そもそも暗証番号分からないし。

どうやら犯人は私が予想外に早くすられたことに気づき、
焦って現金だけ抜いて財布は捨てて逃げたようだ。

起こってしまったものはしょうがない。
カードがあったので物乞いをしなくて済んだ。
まぁ、気をとりなおして、滝川クリステル似の
美女を隠し撮りして観光を終えようと再び立ち上がった。


あまり載せすぎると気持ち悪がられるので
これくらいにしておこうか。

うーん。それにしてもイスラムの女性は
確かに顔が濃いが絶対数が漢民族より
ずいぶん少ないから綺麗な人もどうしても少ない。

郎木寺で会った日本人の女の子が言っていた
「町中が滝川クリステル」はちょっといいすぎだ。

国際バザールの近くにいるイスラム系の人は
滝川クリステルぐらい顔が濃い人が多い。
(可愛いとは一言も言ってないけどね!)
ぐらいが適切なんじゃないだろうか。

美女探しにちょっと疲れたので休憩がてら木陰に座り、
町で気になった中国語の意味を調べるため
電子辞書を取り出そうとカバンを開いた。
しかしいくら探せど辞書はない。

もしかしてお前、辞書もすったのか!!
あれ三万もしたんだぞ!!

一度は収まりかけた怒りが再び沸いてきた!
ていうか、PCと間違えたのか知らんが
日本語対応の辞書とか明らかにいらないだろう!
闇市場で売ったところで、そんなもん
日本人以外欲しがる人もおらんだろう!

あー!!!!!

いらいらする。
イスラム教徒が全員敵に見える。
一人の悪い奴のせいで全員が悪に見える。

まずあんな辞書は犯人にとっていらないものだ。
だったらゴミ箱に捨てるか、道端に捨てるかだ。
私は現場付近のゴミ箱を全部のぞいた。
しかし、ない。

こうなったら警察である。
紛失物を警察に届けてくれるような人は
日本よりは格段に少ないはずだ。
しかし、かつては孔子を生んだ国で
東アジアの模範となった国である。
親切な人がいないとも限らない。

人に聞きながら警察に行く。
警察では突然の外国人の訪問に警官が慌てながら
応接室のような所に通される。

今日はどうした?そういうもんだから
私は事情を全て話した。
金は仕方ないが、犯人にとって辞書はいらないはずだと。
入れ替わり立ち代り3人の警官が登場し
私から話を聞く。だいたい同じ話なんだが。

進展が見られないうちに1時間がたち
私はだんだん馬鹿らしくなってきた。
観光最後の大事な時間を私は警察で何をしているのだろう?
私はメモを書いた。
「赤い辞書が見つかったらゲストハウスに連絡をくれ。」
私がいいたいのはそれだけだった。
それだけなのに、なんでこんなに時間がかかるんだ。
私は警察を出て国際バザールに戻った。

私は怒っていた。何か仕返しがしたい。
しかし犯人と同じように誰かの財布をスったり、
誰かに危害を加えるというわけにはいかない。
憎しみに、憎しみで返してもそこには悲しみしか残らないのだ。

私は天に向けて中指を突きたてた。
これが私のできるせめてもの反抗だった。
犯人どこかで見てないかな?
そして私は願った。

犯人に罰がくだりますようにと。

21-へんてこポーズ集団

我らぼったくり旅行団は
本日のメインイベント、天池に向かっていた。
ゴルフには行ったことがないが、ゴルフ場で
走ってそうな車に乗せられ、天池に向かう。

この頃になると我らぼったくり旅行団は
ある種の連帯感を深めていた。
なんてたって私達は急な乗務員のぼったくり要求に屈し、
泣く泣くお金を払った間柄である。
「遠くの親戚より、近くのぼったくり旅行団」とは
よく言ったものである。

次第に参加者の名前を覚えだした人民たちは
私を渡辺の中国語読みである「渡辺(ドゥービェン)」と
呼ぶようになり、私が一人変な方向に歩いていくものなら
周りから、「ドゥービェン!!」と叫ばれように
なってしまい、これにはまいった。

10分も走っただろうか。
高地の涼しい空気の中、次第に絶景は姿を見せた。


澄み切った空気の中、目の前には空の青を
映す大きな青い泉、そして遥か向こうの
山々の中には雪山も見える。
なんと神々しいのだろう。

そんな絶景の前で人民達はといえば

もちろん大撮影大会開始です!

それにしても何なのですか?
この昭和後期のバブルがはじける前の日本のようなポージングは?
絶景を前に嬉しいのは分かります、私も嬉しいです。
でもなんでこんなポーズをするのですか?
私にはさっぱり意味が分かりません。

変なポージングをしているグループは
これだけではありません!たくさんいます!
もうこの際、ポージングにタイトルでも
つけてやろうではないか。

タイトル「私、初めてカレシができたの!」

タイトル「でかした!妹!」

タイトル「私のカレシになってくれる人、ハーイ?」

タイトル「私でよければ!!!!」

・・・。

これは何をしているのですか?
もしかして、もしかしてだけど、元気玉ですか?
地球上のみんな!オラに元気をわけてくれ!っていう
黄金色した髪したあれですか?
まったく理解に苦しみます。

「ドゥービェン!ドゥービェン!」
私が絶景よりも、絶景と嬉しそうに写真を撮る
人民達を撮っていると私を呼ぶ声がした。
声の主は、バスで席が隣になったおばさんだ。

「なんですか?」

「ドゥービェンも写真を撮りたいでしょ?
 あなたと景色の写真を撮ってあげるよ。
 カメラを貸して!」

「やっぱり、手を天に向かって広げたり、
 腕を組んだりしてポーズをしなきゃだめですか?」

「あたりまえじゃない!それが写真ってもんよ!」

「だったら結構です!私はいわゆる写真が嫌いですから!」

そういうと変な人ね!とおばさんは
言い残し去って行った。

それにしてもだな、私のカメラの中には
目の前の絶景の写真より、中国人の個性あふれる
ポージングの写真のほうが多くなってしまった。
まったく悩ましい。

絶景の後は少しお寺で休憩しましょ!というわけで
向かった先は、階段!階段!階段!のお寺。

ぎょえー。ほんとに登るのかよと思いながらも
登った先は普通の道教のお寺だった。
唯一、変だったのは、やたらとお線香がでかかったことぐらい。
え?どうしてでかいのかって?

知らん!自分で調べてくれ!

ここで自由時間をすごした後、
我らぼったくり旅行団の天池ツアーは終了です。
「さぁみなさんバスに乗りましょう。」
そう促され私達はバスに乗る。

長かった天池ツアーもこれで終了かと思うと
少し寂しい気がした。
このぼったくりバスツアーはつっこみどころが
多かったが、なんだかんだ楽しかったのだ。

一時間後、皆寝静まったバスが駐車場に止まった。

ウルムチの街かと思い降りてみると
どうやらウルムチの郊外のようだ。
ここで降りて後は自分で帰れというのだろうか?
中国語の説明を聞き取れなかった私が乗務員に聞きに行くと
ここで買い物をしないとバスは発車しないという。

最後の最後まで金を落とせとな?
すさまじい商魂である!
私は中央の大黒様のような彫刻を買おうか買うまいか
最後の最後まで迷ったが、結局買わなかった。

彫刻なんていらないよ。
だって私の中には既に旅行団のみんなとの
素敵な思い出が刻まれてあるんだから!
思い出はお金では買えないんだから!

そんなことを考えつつ、バスに戻り
中国人へんてこポーズシリーズの写真を見ながら
なんだこのポーズはと、私は一人ほくそえむのだった。

20-我らぼったくり旅行団

「中国にあるスイス。」

中国人はウルムチにある大自然をそう形容し自慢するという。
私はガイドブックに載っていたその言葉に惹かれ、
忙しい美女探しの合間をぬって、旅行社を訪れた。
旅行社と言っても、バス停にビーチパラソルを広げ、
簡単なベンチと机を置いただけの店だ。

「中国のスイス、天池に行きたいんだけど。」

私がそういうと中央アジアの血を
ひいてると見える顔の濃いその男は
満面の笑みでツアーのファイルを広げた。

「兄貴!チケット、バス代込みで一番安いのは
 200元(2600円)です。昼食もついてますよ!」

中国で旅行は富裕層や中間層のみのものなのだろう。
中国の物価からしてかなり高いが、
それもガイドブック通りなのですぐにサインしそうになったが、
一応最後に聞いてみた。

「これは外国人価格なの?」

「兄貴〜。まったく何を言いますか〜。
 これは私ら中国人も同じ値段ですよ!」

「そう?じゃあすぐそこの他の旅行会社の値段も
 確認してから買うよ。じゃあね!」

「兄貴!待ってください!他の店もみな同じ値段ですよ!
 ほら!ここにサインしてください!ね?」

そのなかなかのイケメン男が人懐っこい
笑みを浮かべるので、私は不覚にもサインしてしまった。
女はこうして悪い男に騙されるのだろう。

                                                                                        • -

翌日、バス停に行くと私は一番乗りだった。
20分もしないうちにバスはほぼ満員になり出発した。
バスガイドはどこか影のある大学生のような女の子。

一時間くらい走っただろうか、
バスは一軒のスーパーの前で止まった。
どうやらトイレ休憩らしい。

しかし、10分経っても20分経っても発車しない。
おかしいなと思って外を見ると、
乗客20人程とバスガイドがなにやらもめている。


前に座ってた、さえない韓国人みたいな顔の中国人の
女子大生二人に、何が起こっているか聞くと、
どうやらバスガイドがここに来て天池のツアーを
続けるなら、さらに一人当たり100元(1300円)
払えと言っているという。

何!!

合計すると300元(4000円)ではないか!
4000円もするなら家でアルプスの少女ハイジのDVDを見ながら
クララが立ったごっごをするほうがましだ!

「でもなんで君達はあの輪に加わって抗議せずに
 のんきにアイスを食べてるの?」

私が女子大生に聞くと彼女達は、言った。

「私達はバス代だけ払ってるだけで、ツアーじゃないの。」

どうりで。

私はとなりのおばさんにも話しかけて情報収集に努めた。
「もともとこのツアーのチケットはいくらだったんですか?」

「えーと、確か一人180元よ。それにさらに100元払えと
言ってるのよ。信じられないわ!」

「一人180元?ほんとに?」

「そうよ、あなたは一体いくら払ったのよ?」

「200元だよ。20元(260円)ぼられたよ!」

20元ぼられた上にさらに100元払えだと?
まったくあの野郎〜。大日本帝国なめるなよ!

私は外に出て口論を眺めた。
さらに100元払うなら今から帰る!という客が続出している。
そのバス代をどうするかで、さらに揉めている。

私はもう100元については諦めていた。
それが奴らの汚い手法なのだろう。
100元けちって、いまさらウルムチに戻っても何をするのだ。
しかし、外国人料金でないといいながら
外国人料金をふっかけられたのだけは許せない!

私はバスガイドに歩みより、
私はこのツアーに200元払ったぞ!というとガイドの女は、
「知ってるわ!ちょっとまって!ほら20元よ!」
とすんなり差額を返してくれたもんだから
私の怒りはある程度収まってしまった。

私は怒れる中国人を尻目におとなしくバスに戻った。
結局、話がついたのは一時間後ですっかり昼をまわっていた。
乗客から100元をまきあげたガイドは
何事もなかったかのようにガイドを続けた。

バスはまもなく天池に到着した。
拡声器で話される早送りしたような中国語は
全く意味が分からないが私はガイドに付いていった。
チケットを渡され、チケットオフィスを通る。

まもなく、目前に絶景がまっていると思うと胸が高鳴る。

目の前に広がる絶景を期待して
連れて行かれた先は、小さな木造の古びた小屋。
その五秒後にはパイプ椅子に座らされ
白衣を着たおばさんから漢方薬の説明聞いてました。

その後は、漢方薬の大即売会です。

その後はなんと専門家に持病を相談できちゃうんです!

大自然はどこいった?なんて
野暮なこと聞くのはここではノンノン!
だって私達、三度の飯より漢方薬が大好きなんですもん!

それにしても君、ズボンなかったのかな?

次に連れて行かれたのはカザブ族のテント。

テーブルにはいろんなおつまみが置いてあり、
お茶を飲みながらつまめる。
カザブ族のショーはすぐに始まった。

お姉さん踊る、踊る。

お兄さん歌う、歌う。

人民加わる、加わる。

そして盛り上がりは、、、

最高潮を迎えるのです!!!

そんな最中・・

老人チーン、チーン。

おばぁ 「あたしゃ付き合いきれんよ」
おじぃ 「おらもだ。」

-_-

踊り疲れた後は、おいしい昼食です!
たくさんありすぎてもう何族か分からないけど、
連れて行かれた先はどこかの民族の野外レストラン。

だされたのは日本の味に似た優しい味のピラフ。

私は美味しくたいらげたのですが・・・
中にはこんな方もいらっしゃいました。

全身でまずいアピールする人民。

目が完全に死んでますね。チーン。

ご飯のあとは、いろんな民族の住む
テントの近くで撮影大会ですよ!

いろんなポーズで記念撮影する人民に

一族総出で記念撮影する人民達

私は暇そうにしていたどこかの民族の女の子に
声をかけ写真を撮らしてもらったのだが

それを見ていた人民達が、大撮影会を始めました。


女の子は次第に疲れてきたようで
露骨にしんどそうにため息をつきはじめた・・。
なんだか悪いことしてしまった。

そして私達は再びバスに乗せられ、
ようやく今日のメインイベント、
中国のスイス・天池に向かった。

我等、ぼったくり中国旅行団の旅は
最大のフィナーレを迎えようとしていた。

(長いので続く・・)

19-楼蘭に見た夢

ウルムチに着いたのは朝の10時だった。
列車で仲良くなった子供達や、公務員志望の女子大生
ツァイツァイには、ここで別れを告げ、私は一人ウルムチの街に出た。
巨大な駅のホームには、家族を待つ人達や
観光客を待ち構える商売人の群れで、駅はどこも混雑していた。

私が何より最初に驚いたのはウルムチの街の規模だった。

ウルムチ近郊には砂漠が多く、西遊記で有名な
あの三蔵法師もこの辺りの砂漠を旅したと
聞いていたので、ウルムチはてっきり砂漠にある
小さなオアシスのような街だと思っていたが
至る所にハイセンスなブランドショップや
デパートがあるその様は、なんともまぁ大都会だった。

近代的なBRT(快速バスシステム)と呼ばれるバスも
町中に走っておりシンガポールのような近代的な町を彷彿とさせる。
車内にいるスカーフで顔を隠したイスラム系の女性や
中国とは明らかに違う顔の濃い男達を見ていると
自分がどこにいるのかも分からなくなってくる。

さっそくユースにチェックインを済ませた私は
すぐにバスに乗り、気になっていたある場所に向かった。
そこではなんと「美女」に会えるという。
いまや、会えるアイドルは何も日本だけのものではないのだ。

バスに乗り30分、美女がいるといわれる
新疆ウイグル自治区博物館に着いた。

ここは一階が文化、風俗を展示する展示室、
美女はその二階にいらっしゃるという。

思えば遠くまで来たもんだ。
美女がたくさんいるという美人谷をたずねて
美人谷の山奥に忍び込み、2日にかけて美女を探した。
結局最後まで美女は見つけることはできなかったが、
今度は新疆ウイグル自治区ウルムチには
中国人と中央アジア系の血が混ざった
滝川クリステル系美女が多いと聞き、
はるばる列車に乗り半日かけてウルムチまでやってきたのだ。
なんという美女探しへの執念だろう。
どれもこれも全国に6人いる私のブログの読者に
中国の美女を紹介したいというひたむきな思いからである。
そしてその執念が今、実を結ぼうとしている。

あー、美女を前に興奮が止まらない!

一階の展示物もそこそこに、私は足早に二階に向かった。
「どこですか?美女はどこなんですか!!」
私は興奮のあまり警備員に迫っていた。


「はい、はい、美女ならこちらです。」


通された先にその美女は横たわっておられた。
目を閉じ、唇を閉じ今にも私を受け入れようとしている。



ガイドブックには「美女」って書いてたけど・・

どこが美女やねん。

この女性は「楼蘭の美女(ろうらんのびじょ)」と呼ばれ、
4000年頃前に砂漠の道を通り、かつて楼蘭という国があった
この辺りに巡りついたヨーロッパ系の人種だそうだ。
砂漠の乾燥地で見つかったミイラのため腐敗がそれほど進まず
かなり原型をとどめているという。

発掘後の防腐剤の影響で真っ黒になってしまった彼女だが
こうなる前はきっと、こうだっただろうという復元画像があった。
今はこうだけど・・きっと昔は可愛かったよね!
誰しも一度は美しかった時代があるよね!うん!
ある!ある!私は期待を込めて画像を注視した。






私は注視を中止した。
町内会探したら5人はこの顔やで。

周りにはこの美女のほかに数名のお友達がお昼寝をされていた。


手なんかはずいぶん原型を留めている。

美しくなくていい。可愛くなくてもいい。
キレイでなくてもいい。太っていてもいい。
だから、お願い。

せめて息はして?

私は美女探しへの決意を新たに博物館をでた。
空では4000年前、彼女達を焼き尽くしたであろう
大きな太陽が、今度は私を焼き尽くすかのように
そして、どこかあざ笑うかのようにさんさんと照り付けていた。

18-中国の車窓から

ウイグル自治区ウルムチに行くことを決めた私は
同仁からバスに乗り西寧までやってきた。
ここはダライラマ14世の出身地ともかなり近く
ダライラマの生家もあり旅行社に手配すると見学することが
できるらしいが、今の私にはそんなものこれっぽっちも興味ない。
私が今、興味あるのは町中が滝川クリステルだという
魅惑の街「ウルムチ」だけなのだ。

西寧からはウルムチ行きの鉄道の走る蘭州へ再びバスで目指した。

同仁からの移動時間だけで8時間。
かなり疲れているが私に残された時間は少ない。
このまま蘭州でウルムチまで行く夜行列車のチケットが運良く
買えればいいなと思い駅まで行ったが、
当日のチケットはどれも既に売り切れていたようで
仕方なく翌朝のチケットを買った。
物価の安い中国だから、チケットなんて150元(2000円)くらいで
買えると予想していたが、339元(4500円)したのには心底驚いた。
しかし仕方ない。どれもこれもクリステルのためなのだ。

チケット高いわ、街には高級ホテルしかないわで、
蘭州は私にとって、ろくでもない町だった。
私は町中歩きまわり、中国人しか泊まることのできない
招待所にこっそり行き、招待所のおばばを
なんとか説得し、500円で泊めてもらった。
そこは廊下に面した窓が一つにベッドが
一つあるだけの簡素な独居房のような部屋だった。

しかし仕方ない。ただ、ひとつだけ分かってくれ。
どれもこれもクリステル、君のためなんだ。

翌朝、駅に向かった。
長距離の鉄道に乗る際、中国人が必ずそうするように
私はカップ麺とお菓子を大量に買い込んだ。
鉄道で売られる弁当は高く、そしてたいしておいしくない。
車内でカップ麺も売られているが値段が高いのだ。
いつの間にか、私もすっかり中国人化していた。

中国の列車は座席もあるが、私は
十時間を越える長旅に備え寝台を選んだ。
中国の寝台には等級があり、グレードが高い寝台は
二段ベッドのようになっており、プライバシーを守るための
カーテンもついており快適な生活が約束される。

しかし、私の選んだエコノミーの寝台は
三段ベッドで、カーテンなどついていない。
三段ベッドは左右にひとつずつあり、
六人が向かい合って狭いスペースを共有するようになっている。
日中は一番下のベッドに乗客が腰掛けソファーのように使う。
そのため、十何時間も一緒に旅をする同乗者次第では
旅が楽しくも、つまらなくもなりえるのだ。

しかし乗客はベッドの下段、上段というのは
チケットを買う段階で選べても、自分のベッドがどこになり、
どんな人間と一緒になるのかは全く分からない。

まさに運が全ての大博打なのだ!

私は車内に入り、自分のベッドであるベッドの上段に居座った。
向かい合わせのベッドまでは1mほどしか離れてない。
一体どんな人が来るんだろう。

しかし発車間際になっても誰も来ない。
私は暇なので仕方なく旅の日課となった日記に
今日列車の中ですることを列挙することにした。

私は日記を書く時に気をつけていることがある。
日本に帰って誰にも私のプライベートな日記を
読まれないように、字は書いた私が、かろうじて
読めるくらいに「あえて」汚く書いて暗号化しているのだ。
そのことを、先にことわっておきたい。

今日することで、腹筋をするのはまだいい。
長旅で鈍った体を鍛えようとしているのだ。
ガイドブックを読んでウルムチの予習をするのもいいだろう。
しかしだ。タイツを脱ぐとは一体なんだろう・・。
一日にすることがこれだけとは、なんと荒廃した
生活なのかと、今読み返してみて思う。

私が馬鹿な日記を書いていると私のベッドに近づく者がいた。
長く適度に色落ちしたキレイなデニムを履いた、、女子大生だ!
下段なの?中段なの?それとも私と同じ上段なの?
彼女がはしごに足をかける。
下段を飛び越え、中段をまたぎ、、上段キター!!!^_^

女子大生はベッドに横になるなり、私には目もくれず
ペンとテキストを持ち勉強し始めた。
これで結構シャイな私は自分からは一切話しかけない。
しばらくして列車は動き始めた。
三時間くらい私と女子大生の間には列車の走る音だけ響いていた。
すると突然、その静寂を切り裂く声が隣からした。

「あなた、数珠をしてるけどモンゴル人?チベット人?」

私はそう言われチベットで買った数珠を見た。

数珠をしている人間の多くはチベット仏教徒である。
チベット仏教徒にはチベット人はもちろん、
内モンゴルの信者も多い。

「どちらでもないよ。日本人だよ。」

「そうなの?てっきりチベット人かと思ったわ。
 私はツァイツァイ、モンゴル族よ。よろしくね」

彼女はそういい笑う。
女子大生の笑顔はこれでもかというくらいまぶしい。

「何を勉強しているの?」
私がそう聞くとツァイツァイは答えた。

「明後日、ウルムチで公務員試験があるの。
 1800人受けて12人受かるような試験よ。
 そのために勉強しているの。」

「試験、緊張してる?」

「緊張なんてしないわ。ところであなたはどこに行くの?」

「私はウルムチに行くんだ。」

「私と一緒ね、観光?」

「そうだよ」

「そうだ、何か困ったことがあったら私の携帯に電話して。」

彼女はそういい、道端で配られているような
広告に自分の電話番号を書き込んだ。


女子大生の携帯番号、キター!^_^


「いつまでウルムチにいるの?」

「3日間くらいかな」

「それなら試験が終わったら私が観光案内するわ!」


デートキター!^_^


「ほんとに?ウルムチ詳しいの?」

「三回しか行った事ないわ」

彼女が笑い、私も笑った。

私達のベッドの下では子供が二人、通路で遊んでいた。
男の子と女の子、どうやら彼らも列車で出会ったらしい。
私が下に降り、彼らにちょっかいをだしていると
私はすぐに彼らに取り囲まれてしまった。

この子達は私が中国人だと思って近寄ってきているが
私が日本人だと知ったらどうなるだろう?
もしかすると逃げ出してしまうだろうか?
一抹の不安がよぎる。

「私は日本人だよ。」

仲良くなってきた頃に私がそういうと
男の子は「何?そんなわけないでしょ!」
と言い私のほうを目をパチクリさせながら見ている。

「本当だよ。だって中国語の発音少し変でしょ?」

男の子は一瞬とまどっていたが次の瞬間に
私に遊んでくれ〜と抱きついてきた。
彼らが欲しいのは、ただの遊び相手で、
そこに国籍はあまり関係ないようだ。

「そうだ!絵を描いてあげよう!そこに座って!」

そういい私は彼らの絵を描き始めた。
彼らはやがて、学校の教科書で
日本人は凶暴で残虐な民族だと習うだろう。
私は幼い彼らの日本人に対する印象がたとえ少しでも
変わればいいと思った。

中国のお友達へ、日本の友達より

「どう?似てる?」

どれどれ?と彼のおかあさんまで寄ってきた。

ハハハ!筋肉ムキムキじゃない!これはあんたの将来の姿よ!
よかったわね!なんて言ってる。

少女の絵も描いたが喜んでくれたみたい。

彼らの人気者になれたのはよかったけど
少し横になろうと上段のベッドに行っても
ちびっこが付いてきたのには少し困った。

「声を出したらダメだよ〜隣でお姉さんが勉強してるから!」
と言っても子供はいうことを聞かず、
兄ちゃん遊んでくれよ〜と私のズボンを引っ張る。
隣では女子大生が「あなた子供に大人気なのね」
と言って笑っている。

私がふと窓の外を見るとオレンジ色の夕日が
窓いっぱいに広がり、野生のラクダが2匹
優雅に歩いていているのが見えた。

私は手に目をやり、夕日色に輝く数珠を見た。
つけてもなんのご利益もないじゃないかと思っていたが
やはりご利益はあるのだろうか、なんだかそんな気がしてきた。

ウルムチは、クリステルはもうすぐそこだった。