19-楼蘭に見た夢

ウルムチに着いたのは朝の10時だった。
列車で仲良くなった子供達や、公務員志望の女子大生
ツァイツァイには、ここで別れを告げ、私は一人ウルムチの街に出た。
巨大な駅のホームには、家族を待つ人達や
観光客を待ち構える商売人の群れで、駅はどこも混雑していた。

私が何より最初に驚いたのはウルムチの街の規模だった。

ウルムチ近郊には砂漠が多く、西遊記で有名な
あの三蔵法師もこの辺りの砂漠を旅したと
聞いていたので、ウルムチはてっきり砂漠にある
小さなオアシスのような街だと思っていたが
至る所にハイセンスなブランドショップや
デパートがあるその様は、なんともまぁ大都会だった。

近代的なBRT(快速バスシステム)と呼ばれるバスも
町中に走っておりシンガポールのような近代的な町を彷彿とさせる。
車内にいるスカーフで顔を隠したイスラム系の女性や
中国とは明らかに違う顔の濃い男達を見ていると
自分がどこにいるのかも分からなくなってくる。

さっそくユースにチェックインを済ませた私は
すぐにバスに乗り、気になっていたある場所に向かった。
そこではなんと「美女」に会えるという。
いまや、会えるアイドルは何も日本だけのものではないのだ。

バスに乗り30分、美女がいるといわれる
新疆ウイグル自治区博物館に着いた。

ここは一階が文化、風俗を展示する展示室、
美女はその二階にいらっしゃるという。

思えば遠くまで来たもんだ。
美女がたくさんいるという美人谷をたずねて
美人谷の山奥に忍び込み、2日にかけて美女を探した。
結局最後まで美女は見つけることはできなかったが、
今度は新疆ウイグル自治区ウルムチには
中国人と中央アジア系の血が混ざった
滝川クリステル系美女が多いと聞き、
はるばる列車に乗り半日かけてウルムチまでやってきたのだ。
なんという美女探しへの執念だろう。
どれもこれも全国に6人いる私のブログの読者に
中国の美女を紹介したいというひたむきな思いからである。
そしてその執念が今、実を結ぼうとしている。

あー、美女を前に興奮が止まらない!

一階の展示物もそこそこに、私は足早に二階に向かった。
「どこですか?美女はどこなんですか!!」
私は興奮のあまり警備員に迫っていた。


「はい、はい、美女ならこちらです。」


通された先にその美女は横たわっておられた。
目を閉じ、唇を閉じ今にも私を受け入れようとしている。



ガイドブックには「美女」って書いてたけど・・

どこが美女やねん。

この女性は「楼蘭の美女(ろうらんのびじょ)」と呼ばれ、
4000年頃前に砂漠の道を通り、かつて楼蘭という国があった
この辺りに巡りついたヨーロッパ系の人種だそうだ。
砂漠の乾燥地で見つかったミイラのため腐敗がそれほど進まず
かなり原型をとどめているという。

発掘後の防腐剤の影響で真っ黒になってしまった彼女だが
こうなる前はきっと、こうだっただろうという復元画像があった。
今はこうだけど・・きっと昔は可愛かったよね!
誰しも一度は美しかった時代があるよね!うん!
ある!ある!私は期待を込めて画像を注視した。






私は注視を中止した。
町内会探したら5人はこの顔やで。

周りにはこの美女のほかに数名のお友達がお昼寝をされていた。


手なんかはずいぶん原型を留めている。

美しくなくていい。可愛くなくてもいい。
キレイでなくてもいい。太っていてもいい。
だから、お願い。

せめて息はして?

私は美女探しへの決意を新たに博物館をでた。
空では4000年前、彼女達を焼き尽くしたであろう
大きな太陽が、今度は私を焼き尽くすかのように
そして、どこかあざ笑うかのようにさんさんと照り付けていた。