2-さっそく美女現る
こんなに気分が乗らない旅は初めてだ！
神に任命されたとは言え、私は今回の旅に全く乗り気ではなかった。
空港に向かうバスの中で私は終始もんもんとしていた。
だいたいチベットの山奥で絶世の美女を見つけたところで、
私には彼女がおり、今後その美女との関係が
進展するとは考えられない！
仮に浮気でもしようものなら、日本から呪いの呪文や、
わら人形に釘を打ち付ける音がskypeから聞こえてくるだろう・・。
私は本音を言うとチベットではなく、
パラオ等のビーチリゾートに行きたかった。
何を隠そう私は地元で
「ビーチ大好き渡辺さん」と呼ばれているのだ。
新舞子浜で私を見ない日はないと地元の漁師達も
真顔で証言している。
しかしだ！私がビーチリゾートで休日をエンジョイ☆している
ブログを読者が見て、おもしろいだろうか？
いや、全くおもしろくない！
これっぽっちもおもしろくない！
私のような「自称」作家が旅に出る際には
「美女を見つけ出す」とか、そういうテーマが必要なのだ！
パラオ、ビーチリゾートの旅には、そういうテーマ性が見出せない。
だからこそ、私はチベットの山奥に美女を探しに行くのだ！
ご理解いただけただろうか。この想い。
まぁ、チベットに美女を探しに行くのはいいとしよう。
私とて美女は好きだ。
しかし、なんで私はわざわざ中国の観光ビザを取得して
三週間も滞在することを決めたんだろう！
まったく航空券を買ったあの夜は、
日々の雑務に追われ頭がどうかしていたんだと思う。
三週間なんて長すぎる！せめて二週間にしてくれ！
いや、中国みたいな外国人を騙しては
喜んでいる国なんて一週間で十分だ！
あぁ。。
私の嘆きも虚しくバスは関西国際空港へ着々と近づいていく。
このもんもんとした気分はバスが速度を速める度に加速していく。
お疲れさまでした。関西国際空港到着でぇーす。
運転手のさらに気の滅入るような低い声が車内に響く。
私にはそれが死刑宣告のように聞こえた。
私は重いバックパックを背負い、歩き始めた。
これは重い荷物を持って旅をするという刑なのか？罰なのか？
おぉ神よ。。我が主よ。。
テンションがた落ちの私は空港内にある
無料でインターネットができるパソコンの前に来た。
こういう時はネットである。
テンションが上がる情報をよろしくね・・。
まぁチベットに行くわけだから、とりあえずこう打ってみた。
「チベット 最新情報」
私はとある質問サイトを見つけた。
いろいろと書いてある。なになに・・・。
（原文）
４月段階で海螺溝、四姑娘山への成都からのツアーに
外国人が参加できなかったこと確認しており、
アバ、カンゼ両州への外国人の旅行が極めて厳しい状況です。
長距離バスも同様です。この状況は１月より厳しくなっており、
外国人の対立入り禁止区域が広がっていることを示します。
５月現在の状況に関しては未確認です。
え？
えぇええええええええええええええええ！
そこは私が行こうとしているどんぴしゃの場所である！
なんで今さら言うのだ！
忙しさに負けて事前の下調べを全くしていない私も悪い！
しかしだな、何も飛び立つ寸前の空港で言うことないだろうに！
と言っても一つの情報サイトに全てを頼るのは危険である。
こういった情報はいつだって流動的なのだ。
落ち着いて違うサイトで情報を調べよう。おっ、あった、あった！
よーし、どうやらチベットに関する掲示板である。
真偽はともかく、もしかすると最新情報が得られるかもしれないぞ！
なになに・・・。
（原文）
中国はチベットへの外国人の立ち入りを制限して
その間にチベット人を大虐殺しているに違いない！
・・・見なかったことにしようと思う。
もう嫌だ、テンションがた落ちである！
確かにチベットは問題が多く、最近も警官が僧侶に発砲して
僧侶二人が亡くなったり、中国のチベット支配に僧侶が
焼身自殺で抗議したりと悲しいニュースが多い。
それは知っていたけど、まさか行けないとは・・。
チベットに行けなかったらどこへ行こう・・。
内モンゴルにでも行ってモンゴル相撲でもして帰ろうか・・。
案外勝っちゃうかもよ・・。ははは・・は。
私は、もう旅のことなんてどうでもよくなってしまった。
とりあえず中国の成都まで飛行機で飛んで
そこでバスの切符が買えればチベットに行けばいいし、
無理ならどこか適当に行こう。
どこか適当に「三週間」行こう。。
投げやりな私を乗せた中国国際航空の飛行機は
北京を経由し夕方５時に成都に着いた。
成都のある四川省はマーボー豆腐などの辛い料理で有名だ。
というのも四川省の冬はとてつもなく寒いので
辛い料理で体を温めないと寒くてやってられないらしい。
冬が寒いのなら、春もそこそこ寒いだろう！と思い
冬の格好でやって来た私が馬鹿だった。
私はコートを脱ぎ捨て、空港の外に出た。
2009年以来の中国である！
あ〜懐かしい！！
男達は相変わらず服から腹を出して歩いていた。
冗談に聞こえるかもしれないが、中国の男は
１０人いたら１人は必ずこの格好なのだ。
もしかして、この国では、でっぷりした立派な腹の男のほうが
女性にもてるのだろうか？
一方の女性はどうだろう。私は中国の女性を見て驚いた。
多くの女性が綺麗に化粧をし、ファッションも３年前とは
比べ物にならないくらいお洒落になっていたのだ！
私の印象の中の中国人はいつもドラえもんか
何かキャラクターが描かれたＴシャツを
いつもこれ見よがしに堂々と着ていたものだ。
しかし、今はどうだろう。
今は流行りのファッションを着こなし、さらに化粧までしている・・・。
日本のお洒落な女の子と全く遜色ないのだ。
久しぶりの中国は、男は相変わらずなのに、
女の子はえらく進化していた。
いつの世も女の子は先を行っているなぁ・・。
私はバスに乗りMIX HOSTELというゲストハウスに向かった。
ゲストハウスに到着し私がチェックインしようとすると、
「ROLY」という名札をつけた女性が手続きをしてくれた。
どうやら彼女の英語名らしい。
うーん。それにしても・・
中国最高！
私が一時、影ながらに応援していた台湾の女優、
李康宜にそっくりというか、本人より可愛い！
こんなに綺麗な人が成都にごろごろいるなら
美人谷に行く意義すら見失ってしまいそうだ！
いっそ美人谷なんか行かないで
ROLYと毎日デート三昧でも悪くないな・・・。へへへ。。
とよからぬ想像をしているとROLYが成都はどう？と聞いてきた。
成都はとても暑いね！思いもよらなかったよ！と私が言うと
ROLYは、成都の冬は寒くて、夏は暑いのよ！と教えてくれた。
成都終わっとうやん！
そうか、冬は寒くて辛い物を食べるけど
夏は逆に暑すぎて、汗をかいて熱を体内からにがすために
辛いものを食べるのだろう。全くよくできているもんだ。
聞けばROLYは成都大学の学生で21歳らしい。
彼女はこのゲストハウスのインターンをやりつつ
大学では経済を学んでいると教えてくれた。
仕事中に携帯をいじっているから、何をしてるの？と聞くと
彼女はＱＱよ！とはにかみながら言った。
ＱＱは中国人なら誰でもＩＤを持っているＳＮＳである。
日本では仕事中に携帯で遊ぶのはいけないんだよ、
と日本の事情を教えると、だったら日本では
やってけそうにないわ！と言って笑った。
私はROLYの入れたインスタントコーヒーを飲み
「ここのコーヒーは世界で一番うまい！」
と訳の分からない事を言い席を立った。
あまりあの席に長居したくはなかった。
どうもROLYと話しているとチベットなんて
どうでもよくなってしまいそうだったのだ。
私はそそくさと部屋に戻り、寝ることにした。
成都の夜はそれはそれは暑かった。
